やきもの × ”    ”

 

やきものと漆の組み合わせた「陶胎漆器」歴史は、我が国では縄文時代にまで遡ることができる。これは、我が国の異素材を融合した工芸表現の中でも非常に初期の表現であり、人間の本能的な素材の融合と言える。しかし、やきものにおける焼成技術の向上と反比例するようにして、歴史の表舞台から姿を消した。その後時代を経て、安土桃山時代に流行する「金継ぎ」や江戸時代後期に始まる「豊楽焼」にみられるような表現が生み出されてたが、やきものが造形をなし漆が装飾の役割をもつという素材の役割については、縄文時代の表現から変化がみられない。

 

やきものや漆は何千年もの歴史の中で、それぞれに固有の技術や表現を発展させてきた。私は、現在まで受け継がれ発展してきたそれぞれの表現を柔軟に融合していくことで、工芸における領域横断的な新たな表現を目指している。近年では、博士学位論文で自身の技法を「陶𡑮」(とうそく)※と定義することで、従来の表現と比較して、やきものと漆の表現が混じり合う作品へと展開している。

 

一方で、工芸とアートプロジェクトが相互に作用した表現活動によって、現代の多様化し複雑化し続ける社会の抱える問題に、新たな視点からのアプローチも試みている。

 

※「陶𡑮」とは、陶磁器と乾漆の造形が融合した作者の新たな造形表現技法である。𡑮とは、現代における乾漆技法 の別名である。乾漆は漆造形の中核となる造形技法である。乾漆という名称は比較的の近代の用語であり、天平時代の文献によると、𡑮、塞、即または夾紵と記されている 。陶𡑮においては、「陶」と対等な素材関係を表すため、乾漆ではなく「𡑮」という一文字でこの技法を表現している。「陶𡑮」は、陶磁器と𡑮が不可能な造形を相互に補完し、さらには相乗効果を生むもので、それによってこれまで相互に成しえなかった造形領域に踏み込んだ造形が可能となる。